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北陸地方 富山県

富山県

立山連峰から富山湾までの急峻な地形が紡ぐ食文化

本州中央の日本海側に面し、東、南、西の三方を山に囲まれている富山県。標高3,000メートル級の山々が連なる北アルプスの立山連峰から、水深約1,000メートルの「天然のいけす」と称される富山湾に至るまでその高低差は4,000メートルと、ダイナミックな地形を有す。大地は、山々から流れる数多くの急流河川により扇状地が形成され、富山湾を抱くように東から新川平野、富山平野、砺波平野と雄大な平野が広がる。この変化に富んだ風土がバラエティー豊かな食文化を育んでいった。

取材協力者:今庄智幸(富山県調理師会)

複雑な海底谷と3層の海水がもたらす海の幸の宝庫

天然のいけすといわれる富山湾は県のシンボル。海底は複数の谷が入り組んだ「藍がめ」と呼ばれる海底谷になっており、ここは魚介類にとって格好の住処だ。3種類の海水がひとつの湾の中で層を成しているのも特徴で、河川等の影響を受けた塩分濃度の低い沿岸表層水、その下層には対馬暖流系水、海底近くは低温の海洋深層水が流れる。それぞれの海水を好む魚が集まるため、日本海に分布する800種類のうち500種類もの魚がこの富山湾に生息しているといわれている。

中でも、「富山湾の王者」ブリ、「富山湾の宝石」シロエビ、「富山湾の神秘」ホタルイカなどなど、異名を持ち「富山県推奨とやまブランド」にも認定されているこれらの魚は、さまざまなかたちで郷土料理に用いられてきた。近年では、かつては捨てられていた深海魚「幻魚(げんげ)」が、流通網や冷凍技術の発達などからそのおいしさや栄養の豊富さを見いだされてもいる。
シロエビ

画像提供元:(公社)とやま観光推進機構

富山湾の魅力は漁場の豊かさだけにとどまらない。日本最古の歌集「万葉集」で大伴家持にも詠われたほど景観が素晴らしく、海越しに望む立山連峰の雄大で美しいパノラマは見るものを圧倒する。
雨晴海岸から望む立山連峰

画像提供元:(公社)とやま観光推進機構

水環境に恵まれたおいしい水が農作物を育む

一方、大地に目を向けると水の恩恵を感じずにはいられない。日本海沿岸特有の降雨と降雪の多い気候で、冬場立山連峰に積もった雪はやがて雪解け水となり川を下る大事な水資源。県の面積02月03日を森林が占めており、雪解け水や雨はこの森林が緑のダムとなり清らかな水へとろ過する。さらに急峻な地形も大きな利点に。小矢部川、神通川、黒部川など県を流れる7大河川は、全国の大河川と比較しても流れが早いゆえ、途中で汚染されることが少なく、酸素による新陳代謝が激しいため高い水質を誇っている。水環境に優れている県内の湧き水、川、公園など66件が「とやまの名水」に認定されており、そのうち8件が「日本の名水100選」にも登録されている。
神通峡

画像提供元:(公社)とやま観光推進機構

良質な水はその土地で育つ農作物の豊かさにも通じており、米づくりが盛んな理由にもつながっている。そのため、富山名物の代名詞である「ます寿司」や「おせずし」など米を生かした郷土料理がこれまで数多く生み出され、行事の際の餅菓子も多彩なのだ。
ます寿司

画像提供元:富山ます寿し協働組合

自然の恩恵にあずかる呉東と金沢の香り漂う呉西

東と西で文化に違いがある富山県。富山平野の中央部にある呉羽丘陵を境に県東部を呉東(ごとう)、県西部を呉西(ごせい)とも呼ぶ。
県東部、黒部は富山湾と立山の間に位置し、山、川、海の恩恵を受けており、黒部川扇状地の扇端には清澄な水に恵まれた湧水群が広がる名水の町としても有名。湾に面した生地地区ではこの湧き水を「清水(しょうず)」と呼び昔から飲み水、炊事、洗濯など暮らしに取り入れてきた。良質な水は豆腐づくりにも適している。
県西部にある氷見市は、能登半島の東側付け根部分に位置し石川県に接している。かつては金沢藩(旧加賀藩)で廃藩後に金沢県に属していたが、その後七尾県、新川県、石川県と変わり、1883年に石川県から分離して富山県の一部となった。そのため金沢の食文化と共通する点も多い。

以下で、県内を「富山湾」「砺波・五箇山」の2つのエリアと、「県内全域の餅文化と雑煮」というテーマで、富山県で育まれてきた食文化、郷土料理を紹介していこう。

<富山湾>
富山に季節を知らせる鮮魚と北前船が運んだ昆布文化

氷見市(氷見漁港)、射水市(新湊漁港)、富山市(岩瀬漁港)、滑川市(滑川漁港)、黒部市(くろべ漁港)など、富山湾沿いにはいくつもの漁港が点在。そのどの漁港も漁場との距離が近いため鮮度抜群の鮮魚を水揚げすることができるのだ。春が旬のホタルイカは滑川が県屈指の漁獲量を誇り、「ホタルイカの酢味噌和え」は春を告げる家庭の味として親しまれている。
ホタルイカの酢味噌和え

画像提供元:パノラマレストラン光彩

夏が旬の透明で淡いピンク色をしたシロエビは新湊と岩瀬のみで水揚げされていて、かつてはだし用としてしか使われてこなかったが、近年身の美味しさが知れ渡ると刺身や寿司、またサクッと香ばしい「かき揚げ」などが人気を博すようになった。
秋が旬のベニズワイガニは、新湊、滑川、魚津、黒部と漁獲地域は広く、深海で8~10年かけて育つためその味は格別。肉厚で身離れがよく、甲羅の味噌はとろけるような美味しさと評判が高い。

そして、冬が旬のブリは特に古くから県民に愛されてきた魚。出世魚であることから正月には欠かせない存在で「ブリ大根」などが親しまれている。江戸時代、縁起の良いブリは遠く離れた内陸の飛騨、信州、諏訪へと運ばれ珍重されていた歴史もあり、その道は「ぶり街道」と呼ばれていた。
ブリ漁

画像提供元:(公社)とやま観光推進機構

江戸時代から明治時代にかけ、各地の特産品を乗せ日本海を運行していた北前船は、富山湾沿いの港も寄港地としていて、その際大量に購入されていたのが、北海道産の昆布であった。これをきっかけに「昆布締め」や「昆布巻き」といった料理が生み出され県内全域へ昆布文化が浸透してゆき、現在の昆布大国富山を作り上げたのだ。
昆布巻き

<砺波・五箇山>
一年かけて食材を揃える真宗王国の報恩講料理

県南西部に位置する砺波・五箇山は、深く美しい山に囲まれた庄川沿いの自然豊かな地域。冬は積雪量が大変多く、特別豪雪地帯にもなっている。この南砺市の五箇山は岐阜県の白川郷とともに世界遺産に登録されていて、相倉合掌集落と菅沼集落には趣のある合掌造りの家屋が並び、どこか懐かしい日本の原風景を今に残す。
五箇山の合掌造り集落

画像提供元:(公社)とやま観光推進機構

「真宗王国」ともいわれるほど浄土真宗の信仰文化が根付く富山県の中でも、とりわけ信仰心が篤いのがこの地域。毎年、開祖・親鸞聖人の命日11月28日には法要の報恩講がお寺などで行われるが、その際振る舞われるのが、煮物や和え物、汁物などが御前にのった「報恩講料理」。野菜や山菜など、その年に収穫した中で一番出来の良いものをこの料理のためにとっておく習慣が受け継がれている。
報恩講料理

画像提供元:五箇山総合案内所

地域で料理の内容は異なるが、ここでは縄で縛っても崩れないといわれる堅豆腐を使った「五箇山豆腐の煮付け」や、親鸞聖人の好物である小豆を入れ根菜と一緒に炊いた「いとこ煮」などが御前に並ぶ。
いとこ煮

気温が低く、湿度が高い雪国ならではの気候は、発酵食品を作るのにも適していることから、富山の冬の味覚「かぶらずし」の生産が江戸時代の頃より盛んである。お歳暮や正月料理に欠かせないため、稲作が終わると白カブの栽培が始まり10月下旬頃から収穫され、12月に入ると家庭や各メーカーなどでは、かぶらずし作りが最盛期を迎える。

<県内全域の餅文化と雑煮>
富山県人の節目を飾るのは多種多彩な餅料理

米どころであり、餅ともち米の購入量が全国トップを誇る富山県。人生の節目の行事ごとには決まって餅やもち米を使った料理、菓子が登場する。ころころとした可愛い赤ちゃんが生まれるようにと臨月になると近所へ配る「ころころ餅」、産後三日目の母親が食すと乳の出が良くなるといわれている「三日の団子汁」、針仕事が上手くなるようにとお嫁さんの実家が嫁ぎ先に結婚した年の暮れに贈る「針歳暮」、また弔事や法事には「黒豆おこわ」が作られるなど、餅にまつわる文化や風習が伝承されている。
三日の団子汁

画像提供元:富山県食生活改善推進連絡協議会

正月料理の定番「雑煮」にも注目したい。餅は四角い形で、味付けは醤油ベースが大半だが、具材の種類や量などが県の中でかなり異なる。東部では魚介類や根菜類など具だくさんだが、西部は具材がほとんど入らずシンプル。この東西の中でも、さらにその土地土地の特産品が盛り込まれるため、地域性がかなり反映される料理といえる。
雑煮

富山県の主な郷土料理

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お問合せ先

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