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東北地方 山形県

山形県

"もう一つの日本"と称される山形県の食文化に息づく、滋味深さ

本州の東北部に位置する山形県。県の真ん中に位置する月山(がっさん)の周囲に、「日本百名山」にも数えられる蔵王山(ざおうさん)、鳥海山(ちょうかいざん)、吾妻山(あづまやま)が連なり、一帯には、風光明媚な景観が広がる。

美しい自然に恵まれたこの土地で、俳聖・松尾芭蕉は、奥の細道の全行程のうち43日間を過ごした。「閑(しずか)さや岩にしみ入る蝉の声」。おなじみの"蝉の句"は、山形市の名刹「立石寺(りっしゃくじ)」で詠まれたもの。県内に点在する芭蕉ゆかりの地は、俳句好きのみならず、たくさんの観光客が訪れる名所になっている。こうした魅力を持つ山形県をアメリカの元駐日大使エドウィン・O・ライシャワーは、"山の向こうのもう一つの日本"と称えた。

取材協力店舗:味どころ ふる山

郷土料理が多彩に進化したうまいもの王国

観光客の舌を楽しませるのが、地元でとれた自慢の特産品である。農業産出額の約3割を占める米や全国トップの生産量を誇るさくらんぼ、西洋なしは、品質の高さが全国的にも知られており、県は"美食県・美酒県山形"を標榜するほど。

とろけるような食感の「総称山形牛」や高品質の「山形県産銘柄豚肉」はファンが多い。また、忘れてはならないのが四季折々の彩り豊かなお漬物。「青菜漬(せいさいづけ)」、「赤かぶ漬」など多種多様なふるさとの味が脈々と受け継がれている。
山形県
華やかな食材がある一方で、郷土の味覚も継承されてきた。例えば、雪菜、野菜や山菜の干し物などの食材だ。これらの食材を使った郷土料理を「雪国ならではの知恵が息づいている」と、話すのは古山裕喜さん。米沢市の名店「味どころ ふる山」で、30年以上にわたって厨房を守ってきた。
「現代に伝わっている郷土料理のなかには、食糧が手に入りくい時代に食べはじめたものも少なくありません。地元の人しか知らないような食材も、山形県の知られざる魅力の一つといえるでしょう」
山形県

村山地域最上(もがみ)地域置賜(おきたま)地域庄内地域の4地域で構成される山形県。しかし、郷土料理の代表格である「芋煮」一つとっても、地域によって食材や味付けが異なり、一様ではない。多彩に進化する各地域の食文化を見てみよう。

<村山地域>
里山に古くから根づく保存食文化

山形盆地をはじめとする盆地と、丘陵地、山地で形成される村山地域は、さくらんぼ、西洋なしの収穫量が全国1位を誇る。「さくらんぼ祭り」、「花笠まつり」、「日本一の芋煮会フェスティバル」など、1年を通して様々な祭り・イベントが実施されている。また、蔵王温泉ほか多数の温泉施設とともに、観光スポットとしても人気を集めている。

江戸時代には、最上川舟運を介した交易によって上方文化がもたらされた。この地域の旧家に残る絢爛豪華なひな人形「古今雛(こきんびな)」や「享保雛(きょうほびな)」などは、かつて盛んにおこなわれていた交易の名残りである。
村山地域
正月の行事食として欠かせないのが「ひょう干しの煮物」。「ひょう干し」とは、道端や畑などに自生する「ひょう」(スベリヒユ)を天日干ししたもの。先人たちは夏場に摘んだひょうを干して保存しておき、年始を迎えたとき「今年も"ひょっと"して良いことがありますように」と、縁起を担ぎながら煮物などにして食べたという。

このほか、雪深い地域には、昔から冬に備え、春から夏にとれた山菜や野菜を干したり、塩漬けにしたりして保存する食文化が根づいている。
ひょう干しの煮つけ

画像提供元:やまがたの広報写真ライブラリー

<最上地域>
芭蕉ゆかりの地に残る、一風変わった郷土菓子

四方を険しい山に囲まれ、深い原生林が多く残る最上地域。地域の総面積の約8割が森林に覆われており、全国でも有数の「巨木の里」として知られている。戸沢村の「白糸の滝」は、「日本の滝百選」の一つ。最上川沿いにそびえる最上峡には滝群があり、白糸の滝はその中でも最大規模を誇る。誰もが息を飲むような絶景を前に、松尾芭蕉も句を残している。

地域を流れる最上川の清流に育まれた米を中心に、ニラやねぎなどの園芸作物、山菜や菌茸(きのこ)類の栽培も盛んで、とりわけ、菌茸類の生産は県全体の約7割を占めるほど。
白糸の滝
この地域に古くから伝わる郷土菓子が「くじら餅」。もち米とうるち米の粉でつくった生地に砂糖や味噌、醤油などを混ぜて蒸し上げたもの。一風変わった名前の由来は、昔の「くじら餅」はサイズが大きく、その大きさをくじらに例えたという説や、くじらの皮付きの脂身を塩漬けにした塩くじら似ていたからという説、または「久しく日持ちする」という意味で「久持良餅(くじらもち)」という字をあてたなど、諸説ある。

「くじら餅」は、旧暦の桃の節句の行事食。ひと昔前は、家々でつくるのが習慣になっていて、近所同士で自慢の「くじら餅」をおすそ分けしあっては、その腕前を競ったという。
くじら餅

画像提供元:やまがたの広報写真ライブラリー

<置賜地域>
上杉家が奨めた鯉料理

県南部に位置し、奥羽山脈、朝日山地などに囲まれた置賜地域。西吾妻山を源流とする最上川流域には、米沢盆地、長井盆地、小国盆地が形成されている。特産品の「おかひじき」は、海藻のひじきに似た一年草。地域内外へ出荷され、おひたしや炒め物、サラダなどにして食べられている。

この地域は、上杉家ゆかりの地としても知られている。米沢市の「松ヶ岬公園」にある「上杉神社」は上杉謙信を祀り、春には「米沢上杉まつり」、冬には「上杉雪灯篭まつり」が催されている。
松ヶ岬公園

画像提供元:やまがたの広報写真ライブラリー

この地域では、コイを使った料理が古くから食べられてきた。もともとは川で釣ったコイを食べていたが、藩政時代からはコイの養殖が盛んに。きっかけは、米沢藩主の上杉鷹山公(ようざんこう)。動物性たんぱく質に乏しい米沢藩を案じた鷹山公は、福島県からコイの稚魚を取り寄せ、藩政として養殖を推し進めた。家臣たちは屋敷の庭先などに池をつくり、コイを育てていたという。

滋養に富んだコイは、味噌で煮こんだ「鯉こく」や切り身を冷水にくぐらせた「鯉のあらい」にして食べられていた。なかでも、甘辛く煮こんだ「鯉のうま煮」は大みそかの夜に食べる行事食。庶民は普段口にできないごちそうを前に、翌年の健康を願った。
鯉のうま煮

<庄内地域>
厳冬の味覚を凝縮した沿岸部ならではのごちそう

最上川の最下流域にあたり、日本海に面した庄内平野が広がる庄内地域。肥沃な平野が広がる流域は、日本有数の穀倉地帯。ブランド米「つや姫」の作付けは、この地域が県内全体のおよそ半分を担っている。

酒田港を抱える酒田市は、かつて北前船の寄港地として大いに栄えた。北前船は、江戸時代から明治時代にかけて日本海海運で活躍した商船群のことで、京都を思わせる酒田市の料亭文化は、北前船の商人や船主たちに由来したものである。
庄内地域

山岳信仰の聖地である出羽三山を擁する鶴岡市には、古くから精神文化と結びついた「行事食・伝統食」が継承されている。また、数百年にわたり守り継がれてきた在来作物は50種類以上確認されており、こうした歴史や食文化を背景に、日本で唯一ユネスコの「食文化創造都市」に認定されている。

約60kmに及ぶ沿岸地域・庄内浜では、1年を通して130種類以上の海産物が水揚げされ、近年は「庄内おばこサワラ」や「天然トラフグ」、「庄内北前ガニ」のブランディングにも力を入れている。

魚介を使った郷土料理も多い。冬の食材として古くから親しまれてきたハタハタを茹でた「ハタハタの湯上げ」や5月の天神祭りで食べられる「鱒のあんかけ」などは、この土地ならではのごちそうだ。

庄内の冬の風物詩「寒鱈(かんだら)まつり」の主役は、寒ダラのあらや白子、肝臓などを味噌で仕立てた「寒鱈汁(かんだらじる)」。タラの旨味と旬の岩のりの風味が際立つ1杯に、来場者たちも思わず顔をほころばせる。
ハタハタの湯上げ
このように、長い歴史のなかで形づくられてきた山形県の食文化。ある地域は海の幸に辿り着き、ある地域は山野に食の基盤を求めた。

「『玉こんにゃく』とか『芋煮』とか、派手さはないけど地のものを食べてる感じがしますよね」と、古山さん。その素朴さのなかにキラリと光る食の魅力が、時を越えてしっかりと受け継がれてきている。
玉こんにゃく

山形県の主な郷土料理

  • 塩引きずし

    塩引きずし

    ハレの日の郷土料理として伝承されている「塩引きずし」は米沢市の発祥。サケを塩漬...

  • 鱒のあんかけ

    鱒のあんかけ

    「鱒のあんかけ」は、庄内地域を代表する春の料理。マスのなかでも最も美味とされる...

  • 遠山かぶの粕汁

    遠山かぶの粕汁

    「遠山かぶ」は、米沢市を発祥とする山形県の伝統野菜。その名前は米沢市遠山地区に...

お問合せ先

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