輸入原料に頼らない国内資源由来の肥料をつくる

国際情勢の影響を受けやすい日本の肥料
農業には欠かすことのできない肥料。その主要な3つの要素が、窒素、りん酸、加里です。実はその原料のほとんどが輸入によってまかなわれてきたことをご存じでしょうか?
ところが2021年の秋以降、輸入相手国である中国が肥料原料の輸出検査を厳格化したことや、ロシアによるウクライナ侵略の影響を受け、既存の輸入先国からの原料調達が困難となりました。
肥料の三要素は、窒素、りん酸、加里
肥料の 三要素 |
各成分の働き |
---|---|
窒素(N) | 植物(特に葉)の成長を促す |
りん酸(P) | 開花結実を促す |
加里(K) | 根の発育を促す |
化学肥料原料の輸入相手国・輸入量

尿素

りん酸
アンモニウム

塩化
加里

注目される国産資源由来の「再生リン」
肥料の3要素のうち「りん酸」は、植物の生育に不可欠であり、開花や結実を促すのに大切な養分です。このまま原料を海外に依存していては、再び国際情勢の影響を受けてしまうことから、国産資源を肥料として利用する動きが出てきました。そこで注目されるようになったのが、下水処理で発生する汚泥から「MAP法」と呼ばれる技術で取り出した「再生リン」。汚泥にはりんが豊富に含まれるため、そこにマグネシウムを添加することで、「MAP(Magnesium Ammonium Phosphate:りん酸マグネシウムアンモニウム)」として回収することができます。
「MAP法」で再生リンを取り出す

MAP設備に「消化汚泥」及び「水酸化マグネシウム」を投入し、「粉状」のMAPとして回収します。
和白水処理センターでは最新の「MAP分離装置」を導入。再生リンの回収量が大幅に増えた。

再生リンと堆肥を活用した新たな肥料生産の取組
福岡県のJA全農ふくれん(全国農業協同組合連合会 福岡県本部)では、再生リンを活用した肥料生産に取り組んでいます。同県の博多湾は水の出入りが少なく、海の栄養が過多になって赤潮が発生しやすいという問題を抱えていました。そのため福岡市道路下水道局は、微生物の働きで浄化した下水を放流する際に、高度処理であらかじめりん酸を取り出すことに力を入れてきたのです。設備更新により再生リンの回収量が大幅に増加し、回収した再生リンは「ふくまっぷneo」として肥料登録しています。この「ふくまっぷneo」とJAグループの堆肥などを原料にした新たな肥料「e・green(イー・グリーン)」シリーズが2022年9月から販売されるようになり、好評を得ています。地域資源を活用することは循環型社会の構築につながるだけでなく、肥料価格の変動を抑えるというメリットがあります。

「e・green」シリーズ。福岡市道路下水道局が回収した再生リン「ふくまっぷneo」を活用している。

「e・green」は家庭向けに300gと1.3キログラムの小袋でも販売。肥料の袋詰めは福祉施設に依頼し、農福連携にも力を入れている。

国内資源由来の肥料で野菜を育てたい

福岡県久留米市でほうれん草を中心に、葉物野菜を育てている荒巻耕太さんと小坪眞也さん。2021年は肥料価格の高騰に悩まされました。こうしたことをきっかけに、昨年から「e・green」を取り入れたほうれん草栽培に取り組み始めました。従来の肥料と「e・green」で栽培したほうれん草のデータを比較して、手ごたえを感じているといいます。「1株あたりの重さが1割ほど増えただけでなく、色鮮やかさも増しました。地域の資源を生かしているので、安定して入手できることもこの肥料の強みですね。ほうれん草部会で頑張っている若手の生産者たちにも、自信を持って薦められます。土壌検査も実施し、従来の圃場(ほじょう)と遜色ありません」と、荒巻さん。さらに小坪さんも、「実際に処理センターを視察して、高度な技術でクリーンに処理されていることを自分たちの目で確認できました」と、肥料の信頼性の高さについて話してくれました。

「e・green」を使って育てた荒巻さんのほうれん草。葉が肉厚で、甘味がある。
国内肥料資源の
利用拡大に向けた取組
現在、政府では、国際価格の影響を受けづらい構造へ転換するため、堆肥や下水汚泥資源などの国内資源の肥料利用の拡大を進めています。農林水産省では、2023年2月に「国内肥料資源の利用拡大に向けた全国推進協議会」を設立し、「国内肥料資源の利用拡大プロジェクト」として、先進事例の提供や関係事業者間の連携づくりの取組などを進めています。

農林水産省は、国内肥料資源の利用拡大を応援しています。
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