トピックス1 新型コロナウイルス感染症による影響が継続

新型コロナウイルス感染症は、令和3(2021)年度においても、緊急事態宣言が同年1~3月、4~9月の2回発効されたことに続き、令和4(2022)年1月には34都道府県にまん延防止等重点措置が適用されるなど、我が国の経済・社会全体に大きな影響を及ぼしていますが、外食の売上げや農産物需要等、我が国の食料・農業・農村にも様々な影響が生じる状況が継続しています。
さらに、同年2月以降は、これらに加え、ロシアのウクライナ侵略による更なる原油や穀物等の国際価格の上昇等も懸念される状況となっていますが、以下では、新型コロナウイルス感染症による影響が継続している状況とこれらの影響への対応状況について、主なものを紹介します。
(外食等への支出が減少する状況が継続)
家計消費支出の状況を見ると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の下で、外食への支出額は、令和2(2020)年3月以降大きく減少し、一時的に回復したものの、令和3(2021)年においても影響が続いていることがうかがえます(図表トピ1-1)。また、米、生鮮野菜、牛乳については、令和2(2020)年中頃までは支出額が増加しましたが、後半からは緩やかな減少傾向となっています。
(特にパブレストラン・居酒屋で売上高が大きく減少)
一般社団法人日本(にほん)フードサービス協会(きょうかい)の調査によれば、令和3(2021)年の外食産業全体の売上高は、緊急事態宣言が解除された直後の同年10月以降にやや回復の傾向がありましたが、令和4(2022)年1月に34都道府県にまん延防止等重点措置が適用されたことにより、再び減少しました。特にパブレストラン・居酒屋の売上げは、令和3(2021)年9月には令和元(2019)年同月比で9.5%まで低下した後、令和3(2021)年12月には54.7%まで回復しましたが、令和4(2022)年2月は、再び22.7%まで減少しました(図表トピ1-2)。
また、令和3(2021)年9~10月に農林水産省が実施した調査によれば、今後3~5年先の事業方針について、食品小売業の3割、外食産業、食品製造業のそれぞれ2割が「廃業を検討」又は「事業規模を縮小」と回答しており、経営に深刻な影響が生じていることがうかがえます(図表トピ1-3)。
(外食を始めとする業務用需要の減少が継続)
外食需要を始め、学校給食やイベント等の業務用需要の減少等により、様々な農畜産物需要の減少が続いています。
生乳については、生産が好調な一方で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、外食やお土産等の業務用需要が回復しない中、令和3(2021)年の年末から令和4(2022)年の年始にかけて、乳製品工場をフル稼働させても処理不可能な生乳の発生が懸念される状況となりましたが、消費拡大に向けた業界を挙げた取組と消費者の協力により、そのような事態を回避することができました(図表トピ1-4)。また、例年、年度末からゴールデンウィークの時期は生乳生産が増加する一方、春休み等で学校給食が停止する時期であり、令和4(2022)年の春は例年以上に需給が緩和する可能性があったため、消費拡大に向け業界を挙げて取組を行いました。
花きについては、全体として需要は回復傾向にありますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、成人式、結婚式等の中止・延期や、葬儀の縮小等により、業務用を中心に需要の減少が続き、品目によっては影響が残っています。具体的には、令和3(2021)年の輪菊の市場取扱金額及び取扱数量は平年の1割減となっています(図表トピ1-5)。
なお、米については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前においても、1人当たりの消費量や人口減少等の影響により毎年10万t程度需要が減少している中で、小売事業者向けは令和2(2020)年2月以降、おおむね令和元(2019)年同月比の水準を上回っていますが、中食(*1)・外食事業者向けは令和2(2020)年3月以降減少し、令和3(2021)年においても令和元(2019)年同月比の水準を下回って推移するなどの影響が続いています(図表トピ1-6)。
このほか、砂糖については、国内消費量を見ると消費者の低甘味嗜好等により減少傾向で推移している中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による外出自粛等に伴う外食及びインバウンド需要の減少の影響も受けています。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の下で、子供食堂や生活困窮者等への支援の必要性が高まっています。このような中、外食向けに販売予定であった未利用食品をフードバンク(*2)を通じて提供する動きが広がっています。
*1、2 用語の解説3(1)を参照
(入国制限により技能実習生等の外国人材の入国者数が減少)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、生産現場での人手不足への影響も懸念されました。外国からの渡航者に対する水際対策が強化されたことにより、来日を予定していた外国人技能実習生等の外国人材の入国が困難となり、令和3(2021)年2月から入国者数は大幅に減少しました(図表トピ1-7)。
このような中、同年10月末時点の農業分野における外国人の労働者数は、国内の技能実習生の在留延長などにより、前年10月時点とほぼ同じ、3万8,532人となっています(図表トピ1-8)。
なお、令和4(2022)年3月から水際対策が緩和され、外国人材の入国が認められました。
(事例)観光農園のいちごを学校給食に提供し、農業者を支援(群馬県)
群馬県みなかみ町(まち)では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、町内でいちごを栽培する農業者が運営する観光農園の来場者が大幅に減少したため、令和3(2021)年に観光農園のいちごを町内の小中学校の給食用に提供する取組を実施しました。
その際、子供たちに食育の講話を行うとともに、町内のいちごのPR冊子を配布することにより、地元がいちごの産地であることを周知しました。これらの取組により、小中学生の保護者等のいちごの購入機会も増えているとのことです。
子供たちからは、「採れたてのいちごはおいしい。」、「困っている農家さんを応援したい。」といった声がありました。同町では、このような取組を継続し、いちごを始めとした地元農産物の消費拡大を図ることで町内の農業者を支援したいと考えています。
新型コロナウイルス感染症への対応
農林水産省は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が継続している中で、令和3(2021)年度においても国産農林水産物の販売促進・消費拡大や農林漁業者への経営継続支援等に向けて、各般の措置を実施しています。
ア 国産農林水産物の販売促進と消費拡大を支援
(牛乳乳製品の消費拡大の呼び掛け)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、消費期限の短い牛乳の消費減少に対応するため、長期間保存可能な脱脂粉乳やチーズ等の乳製品を製造してきたことから、これらの乳製品の在庫が積み上がっています。このようなことから、「プラスワンプロジェクト」において、脱脂粉乳を使っている乳製品を中心に、アイスクリームは1日1個、ヨーグルトやチーズはふだんより1個多く(プラスワン)食べるように、政府と生産者団体、乳業メーカー等の関係業界が一体となって消費拡大の協力を呼び掛けました。令和3(2021)年の年末から令和4(2022)年の年始にかけては例年以上に生乳の需給が緩和し、処理できない生乳の発生も懸念されたため、「NEW(乳)プラスワンプロジェクト」を開始し、政府と生産者、乳業メーカー等の関係業界が一体となって牛乳乳製品の消費拡大を国民に呼び掛けました。
さらに、年度末からゴールデンウィークは、需給が緩和する可能性があり、業界団体では、牛乳等の消費拡大キャンペーンに取り組みました。農林水産省としても業界の取組を後押しするため、省公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」やテレビCMによる情報発信を行っています。
(花きの利用拡大のための支援や取組(花いっぱいプロジェクト))
イベントの中止・縮小等により、業務用を中心に需要が減少している花きの利用拡大を図るため「花いっぱいプロジェクト2021」と題した花きの需要拡大の取組を行いました。
「花いっぱいプロジェクト2021」では、農林水産省のWebサイトに特設サイトを立ち上げるとともに、地方公共団体や花きの生産、流通、小売の関係団体等に協力を呼び掛け、家庭や職場等に花きを取り入れて楽しむプロジェクトを実施しました。特設サイトでは、花き業界等の取組や、花飾りに役に立つ情報、BUZZ MAFFの動画等を紹介しています。
(米穀の集荷団体と実需者が連携して行う長期的な保管や販売促進の取組への支援)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による需要減に相当する15万tの米穀について特別枠を設け、集荷団体と実需者等が市場に影響を与えないように連携して行う、長期計画的な販売に伴う保管に係る経費や、中食・外食事業者等への販売促進の取組に係る経費等を支援しています。
(主食用米・酒造好適米の長期計画的に販売する取組への支援)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等による需要減退の状況等を踏まえ、主食用米・酒造好適米を長期計画的に販売する取組に係る保管経費を支援しています。
(国産農林水産物等の販路の多様化や新たな販路開拓の取組を支援)
外食やインバウンドの需要減少の影響を受け、販路が減少した農林漁業者や加工業者等に対して、国産農林水産物等の新たな販路開拓の取組や、学校給食や子供食堂等への食材として提供する際の食材調達費や輸送費等を支援しています。
(フードバンクを通じた未利用食品の子供食堂等への提供の取組を支援)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、子供食堂や生活困窮者等へ食品を届きやすくすることが課題となっていたため、子供食堂等へ食品の提供を行っているフードバンクに対して、食品の受入れや提供を拡大するために必要となる運搬用車両、一時保管用倉庫の賃借料等を支援しています。
また、政府備蓄米を活用して学校給食を支援してきた無償交付制度の枠組みの下、子供食堂や子供宅食における食育の一環としてごはん食の推進を支援しています。
(農林水産物・食品の輸出の維持・促進の取組を支援)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、商談機会を逸失している中、輸出先国の経済活動の回復状況に即応して、速やかに反転攻勢をかけられるよう輸出商談・プロモーションを支援しています。また、マーケットインの発想の下、令和3(2021)年12月に改訂された「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」で設定されている重点品目及びターゲット国・地域を対象とした取組を支援しています。
具体的には、独立行政法人日本貿易振興機構(にほんぼうえきしんこうきこう)(JETRO)によるビジネスマッチング、日本食品海外(にほんしょくひんかいがい)プロモーションセンター(JFOODO)による重点的・戦略的プロモーションや、コメ・コメ加工品の海外需要の開拓等を行うなど、官民一体となった海外での販売力を強化する取組を支援しています。
(飲食店の需要喚起のための支援を実施)
新型コロナウイルスの感染状況等を踏まえながら、感染拡大により甚大な影響を受けている飲食店の需要喚起に向けて、都道府県ごとのプレミアム付食事券の発行等を、一時停止・再開を繰り返しながら実施しています。
イ 農林漁業者等の経営継続支援
(農林漁業者や食品関連事業者の事業継続・資金繰りを支援)
農林漁業者の資金繰りに支障が生じないよう、金融機関に対する適時・適切な貸出し、担保徴求の弾力化等の対応の要請を行うとともに、農林漁業セーフティネット資金等の経営維持・再建に必要な資金の実質無利子化・無担保化の措置を継続して実施しています。
また、食品関連事業者の債務保証に必要な資金の支援を実施しています。
(新たな需要に対応した品目への切替え、継続的・安定的な供給を図るための体制整備を支援)
生産構造等の変化の下での農産物の安定供給や新市場の獲得に取り組む事業者に対し、新たな需要に対応した品目への切替え等を図るための高性能な農業機械のリース導入・取得や施設の整備等を支援しています。
また、水田地帯において、新たな園芸作物を導入する産地における合意形成や、園芸作物の本格的な生産を始める産地における機械・施設のリース導入の取組等を支援しています。
(畜産農家の経営体質の強化等を支援)
牛肉の価格に影響を受けた肉用牛肥育経営の影響を緩和するため、肉用牛肥育生産におけるコスト低減等の取組を支援しています。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により在庫が高水準にある脱脂粉乳・バターの需要拡大と生乳の需給調整機能の維持を図るため、新たな業務用需要に対して脱脂粉乳・バターを活用する取組を支援しています。
(需要の減少に対応する農業者等に必要な経費を支援)
野菜価格の下落により収入が減少した農業者の経営を支えるため、野菜価格安定対策事業の資金を追加し、補給金を交付しています。
また、飲食店の時短営業等の影響を受けた食料品卸業界の安定供給機能を確保するため、卸売市場等に対し、非接触型等の業務の構築・推進、販路の多様化・拡大に向けた取組の支援を行っています。
ウ 農業・漁業現場の労働力確保支援
(入国制限等による人手不足を解消するための労働力の確保を支援)
新型コロナウイルス感染症に関する入国制限により、予定していた外国人材が受け入れられないこと等から人手不足となっている農業・漁業経営体に対して、代替人材を受け入れるために必要な掛かり増し経費や人材の募集の情報発信等に必要な経費を支援し、農業・漁業現場における人手不足の解消と農業生産等の維持を図っています。
エ 食料品の供給状況等の情報発信
(食料品の供給状況や農林漁業者・食品関連事業者への支援策についての情報発信等を実施)
農林水産省は、国民に対し、食料品の供給状況等の情報を提供するため、令和2(2020)年3月、農林水産省Webサイトに新型コロナウイルス感染症に関する特設ページを開設したほか、MAFFアプリ(*1)や、SNS(*2)、動画共有サービス等の様々なチャンネルを活用し、引き続き情報発信に努めています。
このほか、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けた農林漁業者・食品関連事業者が令和3(2021)年度に活用できる支援策を取りまとめ、Webサイト上で情報発信しています。

新型コロナウイルス感染症について
(国民の皆様へ)
URL:https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/
index.html#c01

新型コロナウイルス感染症について
(農林漁業・食品産業の皆様へ)
URL:https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/
index.html#d200
→新型コロナウイルス感染症による影響については、第1章第2節、第3節、第4節及び第8節、第2章第1節、第3節、第5節及び第7節、第3章第1節、第3節、第5節及び第6節を参照
→ロシアのウクライナ侵略による食料価格等への影響については、第1章第2節、飼料や資材等への影響については、第2章第7節を参照
*1 農業者等に役立つ情報を農林水産省から直接配信するスマートフォン用アプリ
*2 Social Networking Serviceの略。登録された利用者同士が交流できるWebサイトのサービス
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